日本の工芸品で食器類の1つである漆器は、日本人の生活に馴染み深いものになります。
漆器は自身が所有していなくとも、実家や祖父母の田舎などで漆器を目にしたことがある人は多いのではないでしょうか。
福島県の会津塗、石川県の山中塗・輪島塗、この2つの漆器が日本三大漆器なのですが、実は和歌山県の紀州漆器こそが日本三大漆器のうちの1つなのです。
ここでは和歌山が誇る紀州漆器の魅力についてご紹介します。
Contents
紀州漆器とは
紀州漆器(きしゅうしっき)は和歌山県海南市の北西部にある「黒江(くろえ)地区」を中心に生産されている漆器のことをいいます。
朱塗りの表面から下地の黒塗りが文様として現れるのが特徴です。
伝統工芸品として経済産業省より指定されており(当時は通商産業省)日本三大漆器の1つと言われています。
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紀州漆器の里 和歌山黒江
和歌山県海南市にある黒江地区は、室町時代から漆器で栄えた紀州漆器の町として有名です。
切妻屋根の低い家が道に面して斜めに構えて軒を連ねており、のこぎりの歯のようジグザグした形状の景観が「のこぎり歯の町並み」と呼ばれています。
漆器店や古民家カフェ、造り酒屋などが並んだノスタルジックな雰囲気です。
紀州漆器の歴史
紀州漆器の歴史は室町時代に近代系木地師によって渋地椀が作られたことがきっかけでした。
戦国時代に現在の滋賀県付近にいた木地師の集団が黒江に住みつき、そこで豊富な紀州ヒノキを木地に木の椀を製造したことが始まりです。
元禄元年(1688)に刊行された『毛吹草』(けふきぐさ)に「紀伊黒江渋地椀」と書かれているものが最も古い記録となります。
江戸時代に入り、紀州徳川藩の保護のもと紀州漆器は発展して庶民の日用品として親しまれるようになったのです。
紀州漆器の変化
初期の時代において、漆器の主要な製品は主に椀でした。
しかし時が経つにつれて、1800年代に入ると重箱や盆など、さまざまな種類の漆器が製造され始めました。
また製品の装飾においても、天保年間(1830-1844)には金粉や銀粉を用いた蒔絵技法が導入され、漆器のデザインに多彩な要素が取り入れられるようになります。
黒江の地域においては、1840年頃には約5000人の職人や製造者が居住しており、藩の支援も受けつつ、黒江は漆器の大量生産地として栄えました。
起源は根来塗という説
紀州漆器の起源は根来寺(ねごろでら)という和歌山県岩出市にある寺院で始まった根来塗(ねごろぬり)であるという説があります。
根来塗は、寺院内で使用する膳、椀、盆、厨子などの実用品を僧侶たちが自ら製作することから始まりました。
これらの品々は寺で日常的に使用されるため、根来塗はシンプルなスタイルで、黒漆で下塗りされ、その上に朱漆が塗られるだけで仕上げられました。
根来塗の特徴的な文様は、朱の塗りが摩耗することで、朱と下地の黒の文様が表れるというものです。
この摩耗によって生まれる文様が、逆に風格や趣きを持つものとされ、多くの人に愛されました。
紀州漆器の魅力
紀州漆器は朱塗りの表面から黒の下地が浮き出た文様が美しいとされていますが、伝統的な根来塗に加えて、蒔絵(まきえ)などの華麗な装飾が施された漆器や、現代では合成樹脂素材を用いた大量生産品など、さまざまなニーズに対応する多様な製品が作られています。
紀州漆器は古典的なデザインから近代的なスタイルまで、多くの表情を持つ美術工芸品であると言えます。
紀州漆器が丈夫な理由
日常的に使用しても長く使える紀州漆器ですが、丈夫な理由は木材と漆(うるし)にあります。
木材
器に使用している木材には檜(ひのき)、楠、栃(とちのき)などの木材が使用されます。木材は乾燥させて木地となり、器の形に加工され、鋸やカンナで表面が滑らかに仕上げられ、部品が組み立てられます。
木地加工の際に段階的に乾燥させて木地の歪みやひび割れを防ぎます。
漆
漆の主成分であるウルシオールは、適度な湿度と気候下で酸化し、水や熱に対する強い耐久性を生み出します。
下地工程では下塗り、中塗り、上塗りの工程があり、塗った漆を硬化させることで耐久性がある器になるのです。
紀州漆器の取り扱い方
丈夫で耐久性に優れた紀州漆器ですが、誤った扱い方をすれば痛みが早まり破損しやすくなります。
正しい取り扱い方とメンテナンス方法を知って、長く使えるようにしましょう。
紀州漆器が嫌うものや避けるべき状況一覧
紀州漆器が嫌うものや避けるべき状況 | 劣化の理由 |
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強い紫外線(直射日光) | 長時間の直射日光にさらされることで、色褪せや表面の劣化が生じる可能性がある。 |
乾燥した環境 | 過度に乾燥した場所では、漆器がひび割れることがある。 |
強い乾燥熱(例: ストーブの横など) | 高温・乾燥した環境では、漆器が乾燥しすぎて劣化のおそれがある。 |
湯水に長時間漬ける | 漆器は水に長時間浸すことで、表面が浸透し、変形や剥がれの原因となる。 |
極端に高温・高湿度の場所 | 高温かつ高湿度の環境では漆器が変形しやすく、長寿命を損なう可能性がある。 |
食器乾燥機・電子レンジ・オーブン | 一部の合成漆器は食器乾燥機には対応しているが、使用前に取り扱い説明書を確認する必要がある |
洗い方
漆器の使用後はすぐに汚れを落としましょう。
食器用中性洗剤を使用して、傷付けないように柔らかいスポンジを使用して洗ってください。
濯ぎ終ったら濡れたままにせずに乾いた布で水分を拭き取ってください。
「漆ガラス食器」という新たな紀州漆器
伝統工芸であった紀州漆器が現代のライフスタイルに合わせて作られた結果、新たな紀州漆器として漆ガラス食器「GLASS JAPAN」が誕生しました。
ガラスに漆を塗るという特殊技術で生まれた「漆ガラス食器」は、今までナイフやフォークが使えなかった漆器に対して、表面をガラスにすることで食器が傷付く心配がなくなりました。
漆器のデメリットを全て排除することができたGLASS JAPANは、今や世界が注目する伝統工芸品となっています。
現代に溶け込む紀州漆器をぜひご家庭でも楽しんで
紀州漆器は時代やライフスタイルの変化に合わせて進化を続けており、現代では食器や盆だけではなく、お弁当箱や箸、LEDサインなどにも用いられています。
参照:PR TIME STOY 「紀州漆器とLEDサインの新しいコラボ「伝統と革新」2つの技術から生まれる技術継承の形」
日常の中で、実は気が付かない間に紀州漆器に触れているかもしれません。
和歌山に来た際には、名品紀州漆器を是非お手に取って、歴史を感じながら赴きを楽しんでください。