コラム

紀州箪笥は気品ある佇まいが魅力!和歌山の伝統工芸品紀州箪笥に迫る

紀州箪笥

日本の収納家具の代表として「箪笥(たんす)」がありますが、その中でも桐箪笥という箪笥は多くの人が知っているのではないでしょうか。

実は和歌山にも伝統的な「紀州箪笥」という箪笥が日本の美しい工芸品として知られており、その歴史と職人技術は数世紀に渡ります。

ここでは、紀州箪笥の起源や製作過程、美しいデザインについて解説します。

紀州箪笥とは

紀州箪笥とは

紀州箪笥は和歌山県和歌山市周辺で作られている、和歌山県を代表する伝統工芸品です。

高級箪笥として多くの人から愛されている収納家具になります。

山で伐採された木材が紀の川を利用して運搬され、和歌山市の河口地域に良質な素材が集まることから腕利きの職人たちが集まったことで、今でも紀州箪笥が製造されています。

紀州箪笥の起源と歴史

紀州箪笥の歴史

徳川家の歴史に登場する紀州箪笥

紀州箪笥の起源については明確な記録はありませんが、複数の史料からその歴史を辿ることができます。

紀州徳川家の歴史が記された「南紀徳川史」によると、1846年(弘化3年)に和歌山城が雷に打たれ、多くの道具と共に燃えました。

しかし、1850年(嘉年3年)に天守閣が再建され、長持などの家具も再び作られたことが記録に残っており、当時から紀州には収納家具の製作技術が存在したと考えられています。

江戸時代末期には嫁入り道具として確立

また、19世紀中ごろの記録には武家以外でも箪笥が婚礼調度品として使用されていたことが明らかになっており、江戸時代末期には箪笥の製作技術が現在の和歌山市周辺で確立されていた可能性があります。

南部鉄道開通によって全国に広まった紀州箪笥

明治時代に入り交通網が整備され、紀州箪笥の生産は急速に増加しました。

南海鉄道の開通によって大阪圏への供給も可能となり、紀州箪笥は広く知られるようになりました。

そして戦後、ほとんどの工場が桐箪笥の製造に移行し、その伝統は今日まで受け継がれています。

参照:和歌山県歴史資料アーカイブ

紀州箪笥の魅力とは

紀州箪笥の魅力

日本の風土に合った作りと頑丈さ

紀州箪笥は熱の伝導率が低いことから火に強い特性で知られており、火事が多かった江戸の時代より多くの火災で中の衣類を守ったとされ、人々から「身を焼いて中身を救う」などと言われてきた収納家具なのです。

さらに、湿気に強く防虫であるため、湿度が高い日本での衣料品の収納には最適とされており、何世代にも渡って使えるような頑丈さと耐久性を兼ね備えています。

木肌と杢目の美しさ

紀州箪笥は美しく柔らかな桐材で作られていることから、独自の木肌と優れた木目が特徴的です。

繊細でシンプルな外観を持つ紀州箪笥は、和室から洋室までどんな部屋にも調和します。

最近では、紀州箪笥は小さな家具やインテリアの一部としても人気で、時代に合わせたデザインが展開されています。

紀州箪笥の制作過程

紀州箪笥の工房

紀州箪笥の工房では、同じ形が1本と存在しない木材ひとつひとつと向き合いながら、職人が丹精込めて組み立てています。

材料の選定と乾燥

まず始めに優れた品質の桐の原木を選びます。

木材は樹齢に応じて柾目材(30~60年の丸太で年輪が細く反りが少ない)または板目材(それ以外の木材で年輪が山のように見える)に分類されます。

選ばれた木材は約半年から2年間ほど掛けて自然乾燥します。

これによって余分な水分が抜け、美しい木目が形成されます。

板の加工

乾燥させた木材は、箪笥の各部分となる板に切り分けられます。

特に、扉や引出しの前面に使用する板は美しさが求められますが、それを木取りするためには電動のこぎりを二人がかりで行う必要があります。

二人の息がぴったりでなければ美しく切り出せないため、繊細な作業とベテランの感度が求められます。

木の板はカットされ、糊で貼り合わせられ、最後に鉋(かんな)で削られて仕上げられます。

組み立て

加工された板を組み立てていきます。

接合前にあらかじめ削った溝に木材をはめて仮組みを行い、調整を行います。

その後、正式に組み立てられ、木くぎで接合されます。

木釘造り

紀州箪笥の製造工程においては、金属製の釘は使わず木製の釘(木釘)が使用されます。

これらの木釘を作るためにヌカと一緒に木釘を炒ります。

この工程では木釘の余分な水分を抜き、代わりにヌカの天然油分を木釘に取り入れることが目的です。

焦げることを避けつつ、注意深く炒めながら行います。

仕上げ

引出しや盆の部分に木殺しと呼ばれる作業が行われ、木材を圧縮して隙間を塞ぎます。

その後、木くぎを打ち込み、表面を磨いて仕上げます。

浮造(うづくり)と呼ばれる磨き作業は、木目を浮かび上がらせるための工程です。

続いて、木の実の煮汁と砥粉を混ぜた夜叉五倍子(ヤシャブシャ)で仕上げ、乾燥させた後にロウ引きを施し、扉の蝶番(ちょうつがい)や引出しなどの金具を取り付けて金具を取りつけたら紀州箪笥の完成です。

紀州箪笥の伝統を繋ぐために

紀州箪笥の伝統

かつてはどの家庭にもあった桐箪笥ですが、近年ではマンションに備え付けられたクローゼットや、大量生産で安価に作られた箪笥が使われるようになることが増えたため、箪笥の需要が減少しています。

そのような現状を打破するために、紀州箪笥も時代に合わせて変化しています。

紀州箪笥の技術・技法の継承

現代の紀州箪笥工房では、紀州箪笥のこれからを担う伝統工芸士たちの手によって、箪笥だけにこだわらない、桐の食器類やインテリア家具などを製造、販売しています。

これは紀州箪笥造りの技術と技法を活かした、伝統の枠に捕らわれない革新的な試みです。

参照:ME MEMORU SAMA

女性初の紀州箪笥の伝統工芸士誕生

和歌山県での伝統工芸士の登録は58名いるなか(※2022年現在)、そのうちの一人が女性の伝統工芸士です。

県内での女性伝統工芸士は2022年初の誕生となり、当時は話題となりました。

県内初の女性伝統工芸士となった東ちあきさんは国内外で活躍されており、紀州箪笥の伝統技術を守りつつ、現代のライフスタイルに沿った製品づくりに日夜奮闘されています。

参照:わかやま新報 伝統工芸士に東さん 紀州箪笥で初の女性

紀州箪笥は日常で感じられる伝統工芸品

紀州箪笥は日常で感じられる伝統工芸品

火や湿気に強くて丈夫な上に美しい、これが紀州箪笥の魅力です。

紀州箪笥の伝統的な技術や技法は次世代の職人の想いによって、姿かたちを変えて現代人のライフスタイルに寄り添うようになりました。

そんな歴史と人々の想いが詰まった紀州箪笥を、是非一度手に取ってご覧ください。

きっとその美しさと仕事の繊細さに納得することでしょう。